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「ユートロニカのこちら側」(小川 哲) [SF]

第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

  • 作者: 小川哲
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/11/20
  • メディア: 単行本


設定はさほど目新しくはない。早川書房のHPから引用すると、
>アガスティアリゾート――マイン社が運営する、サンフランシスコ沖合の特別提携地区。そこでは住民が自らの個人情報―― 視覚や聴覚、位置情報などのすべて――への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証されている。しかし、大多数の個人情報が自発的に共有された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。

という〈超管理社会〉のディストピア小説である。
 6つの物語から構成されていて、その都度主人公は変わるが、次の章にも脇役で出たりするオムニバス形式。

●リゾート内で不的確症状に悩む若い夫婦の夫。
●過去データを元に再体験する(VR映画の内部に入って動き回る)システム「ユアーズ」のデータで両親の愛情を追体験。
●殺人事件捜査でデータの蓄積からサーヴァントが推測し容疑者を特定、警官の仕事は確保するだけになった社会。
●ABM(特別区管理局≒警察)で行動データの集積から犯罪予測を行い予防拘束するに至ったBAPシステム。
●曽祖父から代々受け継いだ反骨精神から、都市への擬似テロルを試みる日本人留学生。
●アガスティア創設者の親子3代に渡る葛藤の歴史。

 大きく共有される枠組みの中で、各章で視点と問題状況を変えて様々な状況を描き出している。その中でひとつの流れの中に収まって展開しているわけだが、その方法はいいとしても、やや散漫で、選者の東浩紀が言うように「人間が魅力的ではなく、どうも引き込まれない」面は私も感じた。紙幅が足らないということはあるかもだが。

 「ユートロニカ」とは高度情報管理社会に現れる、人が意識をなくし、社会構造はシンプルになり、集団の利益に資する完全な利他的行為の出来る個体のみによって構成される“永遠の静寂”、とかいうのだが、この奇妙な極端な社会像については、まるでついていけなかった。そもそもディストピア社会の先にそんな理想(?)を構想されても…、と。

 また、最終章あたりになると、キリスト教色がやたら強くなって来て(神学問答が展開し)、これもついて行けなくなった要素で、どうやらこの作品、私には合わなかったようだ。

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