「天使の羽ばたき」(ポール・ホフマン) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]
「神の左手」、「悪魔の右手」に続いてようやく、ついに堂々の三部作完結!
第3巻のタイトルは「ヒトの~」という予想に反して「天使の羽ばたき」だった。クリスチャンなら予想できたのだろうか?「精霊の~」でもいいのではないかとも思うが。
2作目はやや冗漫で実は読むのが若干苦痛だったのだが、今回はそうではなかった。勿論3年ものインターバルがあって、ストーリー内容の大半を忘れてしまっており、それは、親切にも(当然か?)最初に掲げられていた第1,2巻の梗概を読んでも蘇らず、どうも要領を得ないまま引っ掛かりながらぼちぼち読み進めると、だんだんにあの世界に入って行くことができた。それなのにどうも様子が違うということも感じ始めた。物語世界の構築方法の見え方が微妙に、だが根底から変わって来たのだ。
始め(1,2巻)はただのダークファンタジーで、それにしては地名などが妙に実在のものが頻出し、しかも整合性がまるでない、また「ドル」や「メートル」などの単位が平気で使われてヘンだ、などがあって、あまりにも基本的初歩的なミスではないか、それともこいつはわざとやってるのか?などと思わされたが、そういうのはあまり気にならなくなって(なにしろミシシッピ河やゴラン高原、はてはマジノ線まで出てくるんです)そういうトリビアよりも、ストーリーの基調が大変化した方が驚いた。
主人公ケイルが重い病気にかかり、身も心も弱り切って活動が極端に制限される事態となり、それが全編を通して一貫するのである。ヒーローどころではない状態でも意志をふり絞って奮闘するのが痛々しい。相変わらずメシア軍との戦いが繰り返されるのだが、ケイルは前面に出ないことが多くなる。それでも要所要所ではやはり中心になって戦いを指揮するのだった。相変わらず戦場での兵士の膨大な死は続く。
クライマックスシーンのメシア軍の行動の意外さは驚きの展開だ。と言っても、元々の教義が「神の作った失敗作たる人類滅すべし」なカルト教団ならばかくもあらん。それに続くケイルの行末がまた意外、というより静かな余韻を残す(ネタバレにつき書けないが)。
それにしても、この手の小説には珍しくあとがきがあって、著者による解説が付いている。こういうのは普通の小説には邪道の極みなのだろうが、作者のもとには誤解に基づくクレーム(ヘンな地名を出すな、タイムラインが現代と混じり乱れてる、みたいな)が沢山届いたようで、弁明せずには居れない羽目に陥ったとも見える。
以下はその後書きまでを読んでの感想。
この小説が著者の《自伝》的なものとは意表を突かれた。ファンタジーでもなく、冒険小説でも、教養(成長)小説でもないのだ、と。メシア教団の本拠サンクチュアリとその中での虐待ぶりは、著者自身の少年期のカトリック寄宿学校生活に相当し、メンフィスでの見聞はその後のオックスフォード大学での蒙を啓かれた知的な生活に当たる、と。(それでも自身の成長には関係しているので、「成長小説」的な要素は拭えないとは思うのだが。)
一見バカバカしいヘンな(多くは実在する)地名の組み合わせにしても、現実現代世界の不整合・不条理の極端なメタファーなのだ(アメリカのアフガン攻略は中世的世界と21世紀の混在であるように、と)。
それにしては随分と長講釈を垂れてくれたものだとも思わされ、いささか〈脱力〉する羽目になったのだが、一方でなるほど良く正直に種明かしをして下さった、これでスッキリこの小説世界の構造が見えた、という気持ちにもなったのだった。
分厚い3巻本シリーズで、読むには相当な負荷がかかるので、決してお薦めしないけれども、自分としては無駄な読書ではなかった、と思う。
第3巻のタイトルは「ヒトの~」という予想に反して「天使の羽ばたき」だった。クリスチャンなら予想できたのだろうか?「精霊の~」でもいいのではないかとも思うが。
2作目はやや冗漫で実は読むのが若干苦痛だったのだが、今回はそうではなかった。勿論3年ものインターバルがあって、ストーリー内容の大半を忘れてしまっており、それは、親切にも(当然か?)最初に掲げられていた第1,2巻の梗概を読んでも蘇らず、どうも要領を得ないまま引っ掛かりながらぼちぼち読み進めると、だんだんにあの世界に入って行くことができた。それなのにどうも様子が違うということも感じ始めた。物語世界の構築方法の見え方が微妙に、だが根底から変わって来たのだ。
始め(1,2巻)はただのダークファンタジーで、それにしては地名などが妙に実在のものが頻出し、しかも整合性がまるでない、また「ドル」や「メートル」などの単位が平気で使われてヘンだ、などがあって、あまりにも基本的初歩的なミスではないか、それともこいつはわざとやってるのか?などと思わされたが、そういうのはあまり気にならなくなって(なにしろミシシッピ河やゴラン高原、はてはマジノ線まで出てくるんです)そういうトリビアよりも、ストーリーの基調が大変化した方が驚いた。
主人公ケイルが重い病気にかかり、身も心も弱り切って活動が極端に制限される事態となり、それが全編を通して一貫するのである。ヒーローどころではない状態でも意志をふり絞って奮闘するのが痛々しい。相変わらずメシア軍との戦いが繰り返されるのだが、ケイルは前面に出ないことが多くなる。それでも要所要所ではやはり中心になって戦いを指揮するのだった。相変わらず戦場での兵士の膨大な死は続く。
クライマックスシーンのメシア軍の行動の意外さは驚きの展開だ。と言っても、元々の教義が「神の作った失敗作たる人類滅すべし」なカルト教団ならばかくもあらん。それに続くケイルの行末がまた意外、というより静かな余韻を残す(ネタバレにつき書けないが)。
それにしても、この手の小説には珍しくあとがきがあって、著者による解説が付いている。こういうのは普通の小説には邪道の極みなのだろうが、作者のもとには誤解に基づくクレーム(ヘンな地名を出すな、タイムラインが現代と混じり乱れてる、みたいな)が沢山届いたようで、弁明せずには居れない羽目に陥ったとも見える。
以下はその後書きまでを読んでの感想。
この小説が著者の《自伝》的なものとは意表を突かれた。ファンタジーでもなく、冒険小説でも、教養(成長)小説でもないのだ、と。メシア教団の本拠サンクチュアリとその中での虐待ぶりは、著者自身の少年期のカトリック寄宿学校生活に相当し、メンフィスでの見聞はその後のオックスフォード大学での蒙を啓かれた知的な生活に当たる、と。(それでも自身の成長には関係しているので、「成長小説」的な要素は拭えないとは思うのだが。)
一見バカバカしいヘンな(多くは実在する)地名の組み合わせにしても、現実現代世界の不整合・不条理の極端なメタファーなのだ(アメリカのアフガン攻略は中世的世界と21世紀の混在であるように、と)。
それにしては随分と長講釈を垂れてくれたものだとも思わされ、いささか〈脱力〉する羽目になったのだが、一方でなるほど良く正直に種明かしをして下さった、これでスッキリこの小説世界の構造が見えた、という気持ちにもなったのだった。
分厚い3巻本シリーズで、読むには相当な負荷がかかるので、決してお薦めしないけれども、自分としては無駄な読書ではなかった、と思う。
タグ:ファンタジー
コメント 0