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「漫画に愛を叫んだ男たち」(長谷 邦夫) [サブカルチャー]

 この本は2004年刊と古いが、図書館でたまたま目について借りて来て、(最後まで通読する覚悟もなく)試しに読み始めたところ、最初はちょっとディテールが細かすぎて冗長に感じたのが、だんだん引きこまれて結局最後まで読み通す羽目になった。今更、の感が無くもないが、懐かしさと愛おしさのある内容なので。

漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語

漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語

  • 作者: 長谷 邦夫
  • 出版社/メーカー: 清流出版
  • 発売日: 2004/05/09
  • メディア: 単行本


 長谷邦夫という漫画家はそれほどメジャーではないので、知っている人は多くないと思うが、私にとっては昔(1970年ころ)毎月楽しみに読んでいた「COM」という、手塚治虫が主宰していた漫画雑誌に連載していたパロディ漫画でお馴染みの懐かしい名前だ。その人が自分のマンガ人生を振り返って詳しく回想記を書いていたのだった。

 その「COM」にも「トキワ荘物語」がその錚々たるメンバーたちのリレー形式で毎回載っていたのを楽しんでいたのだが、45年前のその時でさえ、すでに随分「昔」の苦労話だったわけだが、それをこの本で再度追体験することとなった。だから既知のエピソードも結構たくさんあった。

 彼の最も近い漫画家は赤塚不二夫である。フジオプロの一員として、そのマンガ人生の殆どを彼のブレーン、アシスタント、ゴーストライターとして過ごしてきたのだから。
 話はトキワ荘以前から始まり、夥しい人との出会い交流が描かれる。手塚治虫、石森章太郎、寺田ヒロオ、藤子不二雄、つのだじろう、永島慎二、つげ義春、水野英子、芳谷圭児、上村一夫、柴野拓美、福島正実、筒井康隆、星新一、梶原一騎、ちばてつや、山下洋輔、坂田明、横尾忠則、三上寛、井上陽水、タモリ……。

 ここでわかるように、著者はマンガだけでなく、SFにも深く関わった人だったということ(「宇宙塵」の初期からの同人であるなど)で、これは知らなかった。タモリを赤塚に紹介したのも彼であった、と。赤塚にくっついていたからいろんな知己を得たというのでなく、彼自身のアクティブな活動と人付き合いによるものが結構多かったのだ。

 それにしてもフジオプロ全盛時代の〈ハレ〉ぶりは凄い。「おそ松くん」に始まり、「もーれつア太郎」「天才バカボン」などたくさんの作品の誕生に立ち会う臨場感がまさに現場からの声として伝わってくる。赤塚の私生活のハチャメチャぶりも。

 ギャグ漫画というのは非常に過酷な創作活動である、というのは以前から薄々は知っていた。赤塚不二夫ほど質量共に秀でたギャグ漫画家は戦後日本に空前絶後だろう。その始まりから終わりまで寄り添って来た著者の証言は貴重だ。しかもトンデモなく面白い。

 しかし、ああ無常、何ごとにも終わりは来る。しかも華やかだっただけにより無残である。本書は手塚の死後、1992年彼がフジオプロを去る時点で終わっている。その時点で既に赤塚のアルコール依存は末期症状に近かった。その後は全く接触を絶ったかのように書かれている。この本の出版は12年後の2004年。その間に、2002年に赤塚は脳出血で倒れ、2004年以降は植物状態となり、2008年に死んでいる(そんな前だったっけ?!タモリの弔辞(勧進帳!)の件はつい最近の印象があるのに)。この本を執筆中赤塚はどんな状態だったのか、それをどう受け止めていたのかについては本書ではうかがい知れない。

 参考→「北島町HOMEPAGE 文化ジャーナル(2004年9月号)」…ここに著者インタビューがある。

タグ:漫画
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