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「フランケンシュタインとは何か―怪物の倫理学―」(武田 悠一) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

 最近、NHK・Eテレで放映された名著41「フランケンシュタイン」:100分 de 名著が面白いと、Twitterでバズっていた(それをまとめたTogetterはこちら)ので読んだ、というわけではない。あの番組、録画してあるが例によって「積んdisk」の殿堂入りしていて未見なのだ。orz なので、図書館内を散歩していてたまたま目について借りてきただけ。

フランケンシュタインとは何か: 怪物の倫理学

フランケンシュタインとは何か: 怪物の倫理学

  • 作者: 武田 悠一
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2014/09/09
  • メディア: 単行本


 私は「フランケンシュタイン」の原作(の翻訳)も読んでいない。勿論、今まで映画などで何度も観たことがあるので、そのイメージは〈常識的〉に持っていたのだが、これほど〈深い〉話だということは知らなかった、…わけでもない。
 勿論最初は単なる「怪物」で知性など微塵も感じさせないイメージではあったが、1994年のケネス・ブラナーによる原作に忠実な映画化(主演ロバート・デ・ニーロ)は観ており、そうではなく人間的な苦悩に満ちた話である、ということは知っていた。

 それにしても謎の多い小説である。200年も前に、19歳の女性によって書かれたというだけでも驚天動地なわけだが、そこに込められた数々の仕掛けの背景、構造、意図などの複雑さについて、様々な論議・批評が行われていたとは、この本を読むまでは考えが及ばなかった。いや、勿論他のホラー作品の主役(ドラキュラとか狼男とか半魚人とか)に比べて、このフランケンシュタインについての研究書は抜きん出て多い、という印象は前からあったことはあったのだけれど。

 著者が南山大学の文学の講義で展開したものをまとめたこの本は、フランケンシュタイン研究史の〈決定版〉と言えるくらいの、膨大な先人の考察を渉猟して掬い上げて紹介している。これほどの興味関心と影響と論議を200年後の今も招き続けている、まさに作品自体が化け物のような存在ではないか?

 本書の構成は、作者メアリ・シェリーの生い立ちから作品の構想執筆の経緯に始まり、ストーリーを追い、その構造を解析し、「怪物」の言語習得、主体意識、外見と内面のジレンマ、人間とは何か問題…などの通常の内容だけでなく、この作品がいかに世界に受容されていったか、映画化によるイメージの歪曲の歴史、「フランケンシュタイン・コンプレックス」(アシモフの造語)、フェミニズムによる解釈(作者の出産経験やら当時の女性の社会的地位やら…)、夥しいオマージュ作品(特に「ブレードランナー」)などについて克明に詳述している。参考文献量は膨大。様々な解釈分析が乱立しているのがわかる。それらはそれぞれそれなりの理路を持っているが、あまりに沢山の論客たちが百家争鳴状態で「それも言えそう、こっちも言えそう」の印象が強い。

 メアリ・シェリーという稀有な作家と時代、それに先立つ思想の早熟な知識が産んだこの物語の、重層的で象徴的表現に満ちた、裏の裏にまだ裏があるような途轍もない小説であることはよく分かった。全く、奇跡のような作品と言うしか無いだろう。


タグ:ホラー SF
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