「沈みゆく大国アメリカ」(堤 未果) [ノンフィクション]
昨日書いた「ルポ 貧困大国アメリカ」からの一連の続編。オバマケアについての話である。アマゾン政治部門のNo.1 ベストセラーになったらしい(ので読んだ人も多かろう、読んでないならすぐ読むべきだ!)。ますますショッキングな内容である。綿密な取材と使命感で書き上げた労作。
【内容】
第一章 ついに無保険者が保険に入れた!
アメリカ国民各層の悲願であった国民皆保険の導入。すなわち、国民全員にいずれかの健康保険に加入する義務を課す。しかし、日本やカナダのような公的保険でなく、すべて民間保険なので深刻な問題が発生した。
低所得層は、「メディケイド」(自己負担ゼロ)、その33%でも、オバマケアの対象になる。
既往症があることによる拒否は禁止される。
保険金の上限は廃止される。最大自己負担上限が6350ドル。
以上、一見理想的だが、実は裏(抜け道)がたくさんあり、
●診療内容を査定されて支払われないケースが多発。
●フルタイム従業員(30時間以上/週)が、50人以上いる企業は、オバマケア基準を満たす保険提供の義務がある。このため、30時間以下の29時間に減らされて収入減になるパートタイマーが続出した。
●薬価は、製薬会社が自由にバカ高く設定できる。
●病院は、メディケイド患者を診れば診るほど赤字になる。
●メディケイド患者を断る医療機関、医師が多い。
●「現状で満足している人はそのままでいい」筈が、そのプランがオバマケア不適合で廃止され、続けられず、保険料が倍になるケース。
etc
この法律はもともとロムニー共和党候補のマサチューセッツ州知事時代のロムニーケアを土台にしている。
保険業界のロビー活動は最も強く(ワシントンにいる17,800人のロビイストのうち4割が医療製薬業界担当)、共和党だけではなく民主党にも食い込んでいる。まさに保険をかけているのである。
第二章 アメリカから医師が消える
医療事故訴訟の激増。法外な賠償金額、それに備える保険料が大変で。例えば20万ドルの年収のうち17万5千ドルもその料金に持っていかれる外科医。医師はもはや勝ち組エリートでなく、ワーキングプアである。
請求事務の作業の書類の山の煩雑さで疲弊してしまう。
電子レポートシステムに詳しく入力しなければならず、その治療成果が評価され、報酬が支払われるが、患者を規格品扱いせざるを得ず、医師の裁量の余地が少なくなる。ファストフードの作業のようにマニュアル化されて、簡単・早い医療→医師の魂を無くされてしまう。
複雑な病気、長期になる病人を避けるようになる。
患者を見れば見るほど赤字になる。
学生時代に借りた学資ローン(平均2千万円)の返済に苦慮する。
専門職の自殺率1位は医師。
第三章 リーマンショックからオバマケアへ
業界からホワイトハウスに入り、法律を作り、そしてまた業界幹部(高額報酬)に戻るという、回転ドアがある。
大手医療保険会社の株価は、オバマケア後上昇した。CEOの報酬が30億円。
ウォール街の詐欺師どもと同じように、国庫からのお金で支えられる。
薬の値段がどれだけ高くても、税金で買ってくれる。
どこの州でも少数の大手保険会社が市場を独占して競争が働かない。保険料は上昇し続ける。増税予定も目白押し。
病院の合併吸収による寡占化も進行する。
独占禁止法が骨抜きになり、銀行の合併やメディアの大企業への集中。株主と広告主の意向が決定する。
第四章 次のターゲットは日本
日本の証券取引所で、ヘルスケアリートが承認された。医療への営利企業の導入。
国家戦略特区法。これで日本の生保市場が狙われる。
混合診療で医療費は高騰していくだろう。民間保険(アクサ、アフラックなどの浸透)オバマケアと同じ構図になっていく。年金も狙われ、GPIF が株で運用され、その運用業務は外資系ばかり。
◆
TPPも含め、安倍内閣は日本をアメリカのこんな、人の命を弄ぶ強欲資本主義に売り渡そうとしているようだ。「美しい国」どころか、なんとも悲惨な地獄のような「醜い国」になろうとしている。なんとか止めなくてはならない。
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