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「海と月の迷路」(大沢 在昌) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

「新宿鮫」シリーズが有名だが、大沢在昌の作品を読むのは初めて。毎日新聞に2011〜2012年にかけ連載されたのも読んでいなかった。

海と月の迷路

海と月の迷路

  • 作者: 大沢在昌
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2013/09/19
  • メディア: 単行本


 ミステリーはあまり読まないのに、なぜ手を出したかというと、あの軍艦島(←現在の廃墟状態のGoogleMapストリートビュー)を舞台にしているというのがとても興味深かったからだ。

 この極めて特異な島については、以前テレビで廃墟となっている様子をみたことはあったし、炭鉱として全盛期の頃の話も少しは聞いていたが、詳しくは知らなかった。南北500m東西150mの狭い人工島に5千人以上の人間が住む、当時世界最大の人口密度だったというこの島が舞台ということは、これはもう《設定の勝利》が約束されたようなものではないか。

 と言っても、現在の廃墟を舞台にしている(だったらホラーか秘境探検モノみたいになっちまう)わけではなく、最盛期の昭和34年頃の話だ。
 そこでどんな生産活動(石炭採掘)が行われ、人々はどう働きどういう生活をしていたのか、というのはとても面白い。ミステリとしての期待ではなく、ルポ的なノンフィクション的な興味が大きかった。

 島の派出所に新たに赴任した新人警官が主人公で、その目と行動を通して展開する構成になっており、前半部の島の地理的描写や多彩な登場人物構成などが詳しく生き生きと描かれていて興趣が尽きなかった。
 女子中学生が溺死する事故を発端にミステリとしてのストーリーが始まるのだが、そちらの展開は面白いけれども少々「ご都合主義」的な難があると思った。ま、別にミステリ的完成度を期待していたわけではないので、スリリングな展開とリアルな描写、語り口の上手さは十分あって堪能したと言える。

しかし、後書で著者が
>…島民の確執なども現実ではない。したがって、舞台にさせてはいただいたが、物語から端島がそうした対立を内包した土地であったと読者に思われるのは、私の本意ではない。
 と書いているのを読んでずっこけてしまった。

 島に住む人々の三大構成員の「職員」(三菱の社員)「鉱員」(採炭作業員)「組夫」(地上作業員)の間のカースト的反目がストーリーを構成する上で最大の枠組みとして機能していたのだが、それがなんと架空だったなんて!なんじゃそりゃああ!である。
 これじゃ台無しじゃないか!これでは島の生活描写などの信憑性にまで疑念が湧いてくる(巻末に参考文献が何冊も挙げられていて、「マトモ」な部分もあるんだろうけれど)。当初の目的とおり軍艦島の実相がよくわかる、と思いながら読んでいたのが足元を救われたような気分になってしまったのだった。

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