「よるねこ」(姫野 カオルコ) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]
最近の直木賞受賞者、姫野カオルコの作品では「ツ、イ、ラ、ク」と「リアル・シンデレラ」しか読んでいない。前者は、私が今まで読んだ数少ない恋愛小説の中で最も良かったものだ(ブログを始める前だったので記事は無いけれど)と、太鼓判を押してお薦めできる(恋愛小説の素人が「推薦」もないもんだ、とは思うが)。
彼女は《恋愛小説家》専門というわけでなく、その作風は多面的なようで(「リアル〜」にしても恋愛小説とは言えないし、今回の受賞作「昭和の犬」にしてもそうらしい)、ホラー作品も書いている、というのを初めて知った。
と言うのも、受賞に関連して、この短篇集について大森望氏が過去(2005年)に書いたレビュー(文庫版の解説)をTwitterで紹介していたのを見てわかった訳で。
早速図書館に予約して、古い本なのですぐに借りられた。
「よるねこ」
学生時代の寮で(いわゆる「学校の怪談」的な)深夜廊下を徘徊し人の魂を食うという巨大な青い猫を目撃した母。それと母の性格との関連。じわじわ来てるところへ最後の一文の怖さがすごい。「記憶ホラー」という範疇について大森氏は書いているが、確かに曖昧な記憶の不整合というのは何やらもぞもぞした不安を醸し出すものだろう。
「女優」
昔付き合いかけて止めて別れた女(女優)がストーカーになったのではないかという疑惑が徐々に高まる。これも最後の一行が効いている。「女の怖さ」を暗示している。
「探偵物語」
恋人から不意に別れを持ち出された男が理由がわからず探偵に調査を依頼し、4週間にわたって尾行するが全く何の異常もない。やがて女の特異な性的嗜好が明らかになる。ちょっと無理筋で後味がよくない。気色悪いというか、こういう怖さもありか。
「心霊術師」
人形サイズの木星人が箪笥の中から現れて、願い事を叶える…という、妖精譚のような「悪魔との契約」の亜種のようななんとも奇妙な作品。しかも主人公はそれを結果的に回避していたという、入り組んだ仕掛け。凝り過ぎな感もある。
「X博士」
渋谷区の片隅にある古い小さな家にふと入り込んだ大学生が、そこの持ち主に遭遇し、戦前のサーカス団の奇妙な話を聞かされ、その怪しげな少女団員のおぞましいフィルムを見せられ、挙句の果てに…、これもまた怖い。
「ほんとうの話」
死者の霊と交感する霊感のある女性の思い出の数々。色んなバリエーション。
「通常潜伏期7日」
ネット掲示板(おそらく2ちゃんねる)のおぞましさを告発するような作品。悪魔呼び出し法のサイトにアクセスして試したためにトンデモな病気に襲われる高校生。
「貘」
アナウンサー志望の女の挫折と、表面的には満たされた安楽な生活の裏で無意識下に抑圧された願望・鬱憤がうごめきドッペルゲンガー的現象を引き起こす。最後は超常的な展開。
総じて、過激な恐怖描写は無く、淡々と記述されるのだが、それがかえって恐ろしさを倍増させる、という非常に巧みな文章で、この作家の技巧のレベルの高さが如実に現れていると言えるだろう。
彼女は《恋愛小説家》専門というわけでなく、その作風は多面的なようで(「リアル〜」にしても恋愛小説とは言えないし、今回の受賞作「昭和の犬」にしてもそうらしい)、ホラー作品も書いている、というのを初めて知った。
と言うのも、受賞に関連して、この短篇集について大森望氏が過去(2005年)に書いたレビュー(文庫版の解説)をTwitterで紹介していたのを見てわかった訳で。
早速図書館に予約して、古い本なのですぐに借りられた。
「よるねこ」
学生時代の寮で(いわゆる「学校の怪談」的な)深夜廊下を徘徊し人の魂を食うという巨大な青い猫を目撃した母。それと母の性格との関連。じわじわ来てるところへ最後の一文の怖さがすごい。「記憶ホラー」という範疇について大森氏は書いているが、確かに曖昧な記憶の不整合というのは何やらもぞもぞした不安を醸し出すものだろう。
「女優」
昔付き合いかけて止めて別れた女(女優)がストーカーになったのではないかという疑惑が徐々に高まる。これも最後の一行が効いている。「女の怖さ」を暗示している。
「探偵物語」
恋人から不意に別れを持ち出された男が理由がわからず探偵に調査を依頼し、4週間にわたって尾行するが全く何の異常もない。やがて女の特異な性的嗜好が明らかになる。ちょっと無理筋で後味がよくない。気色悪いというか、こういう怖さもありか。
「心霊術師」
人形サイズの木星人が箪笥の中から現れて、願い事を叶える…という、妖精譚のような「悪魔との契約」の亜種のようななんとも奇妙な作品。しかも主人公はそれを結果的に回避していたという、入り組んだ仕掛け。凝り過ぎな感もある。
「X博士」
渋谷区の片隅にある古い小さな家にふと入り込んだ大学生が、そこの持ち主に遭遇し、戦前のサーカス団の奇妙な話を聞かされ、その怪しげな少女団員のおぞましいフィルムを見せられ、挙句の果てに…、これもまた怖い。
「ほんとうの話」
死者の霊と交感する霊感のある女性の思い出の数々。色んなバリエーション。
「通常潜伏期7日」
ネット掲示板(おそらく2ちゃんねる)のおぞましさを告発するような作品。悪魔呼び出し法のサイトにアクセスして試したためにトンデモな病気に襲われる高校生。
「貘」
アナウンサー志望の女の挫折と、表面的には満たされた安楽な生活の裏で無意識下に抑圧された願望・鬱憤がうごめきドッペルゲンガー的現象を引き起こす。最後は超常的な展開。
総じて、過激な恐怖描写は無く、淡々と記述されるのだが、それがかえって恐ろしさを倍増させる、という非常に巧みな文章で、この作家の技巧のレベルの高さが如実に現れていると言えるだろう。
姫野カオルコの著作は読んだことがなかったが、その名前に興味があっていつか読んでみたいと思っていたので早速図書館にリクエストして借り出して読んだ。
名前に興味があるというのは、カオルコが四文字の名前だからである。日本の女性名は二字(ゆき、みち等)、三字(けいこ、さりな等)が圧倒的で、四字の名は外来名(スザンナ、マリリン等)を除けば、かおるこ(薫子)、さくらこ(桜子)、すなおこ(素直子)、ひまわり(向日葵)くらいしか思い浮かばない、その中のカオルコだったからである。
姫野という姓、カオルコという名から少女っぽいイメージを持っていたのでホラー?という感じだったが、実に怖い短編群だった。
何ということない日常生活の中に埋もれたヒトの心の底に潜む「棘」のようなものを炙り出してゆく作者の文章は淡々として、静謐である。その静かさがかえって恐怖感を増幅させる、その筆力に感服した。
ただ、30数年前の女の子に連れられてホラー映画を見に行って、目ん玉に矢がぶすりと突き刺さったり、心臓を抉り取って血がドバッと飛び散るシーンに卒倒しそうになって笑われたのがトラウマになって、個人的にホラー映画、ホラー小説というのは苦手なのである。
姫野カオルコがホラー小説ばかり書いているわけではないだろうし、作家としての力量も高いと思うものの、ホラー小説の手を考えるのが楽しかったという解説に胸がざわざわするので、他の作品を今後読むことは…まず、ないだろうなぁ。
by 佐野良彦 (2014-03-02 13:19)
佐野さん
「借りた」と聞いてたので、感想はどうかな?と待ってました。ありがとうございます。
>すなおこ(素直子)
この名前は聞いたこと無いなぁ。(「飯島直子? ああ、素の彼女は素直な子だよ」みたいなことを水道橋博士なら言うかもしれないw 週刊藝人春秋参照)
4文字の名前はキラキラネームなら増えてるかもね。
傑作なのは「泡姫」と書いて「アリエル」ってやつ。あり得ねェ〜。将来が心配だ。
苦手なホラーにしては概ね楽しめた(?)ようで、一安心ですが、
>他の作品を今後読むことは…まず、ないだろうなぁ。
いや、「ツ、イ、ラ、ク」はお勧めです。ぜひ読んでみて!
by ask (2014-03-02 13:40)