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「ブエノスアイレス食堂」(カルロス・バルマセーダ) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

確か豊崎社長が褒めていた記憶があって、調べたら第1回(2011発行分)Twitter文学賞海外編で10位だった。
 旅行に持っていったのだが、全く読めずに持ち帰ってから読んだ。結果的には美味を味わうことも目的の一つの旅行の携行本としてはタイトルに反してふさわしくないので、良かったのかも。

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

  • 作者: カルロス バルマセーダ
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2011/10/08
  • メディア: 単行本


 冒頭いきなり驚いた。赤ん坊が母親を食い殺す場面が。「げげげ」となりつつ読み始めた。原題はずばり『食人者の指南書』。

 アルゼンチンのブエノスアイレス近郊の町が舞台で、そこにイタリアからの移民で天才的な料理人の双子の兄弟が1911年にレストランを開くことから始まる。1世紀近くの間に人は次々に入れ替わるが、一度の火災・再建を経て食堂は常にこの舞台となる。邦題の「ブエノスアイレス食堂」は一見のどかな印象を与える(そのつもりで読み始めた時のショックを想像されたい)が、一貫した主人公はこの凄まじい食堂なのであるから、訳者が言うようにふさわしいタイトルだろう。冒頭のショッキングな光景は1978年の事件なので、ずっと後のことをまず提示して、いずれその話の時代になることを匂わせてドライブするというややあざとい手法か。翻訳はこなれており読み易い。が、人名が多出するので、系図的なメモを書きながら読めばよかったと思う。

 血筋は入れ替わりつつ数々の天才的料理人が輩出する、家族の歴史それも非常に激烈な、栄光と悲惨の折り重なった瞠目の歴史だ。
 レストランの驚異的な成功と、悲惨な死の繰り返し。沢山の家族の詳細な境遇描写…これはまさに南アメリカ文学の王道、マジックリアリズムだ!
 栄光は数々のとてつもなく美味な料理の創案と店の大繁盛。死は若くしての病死、自殺、事故死、焼死、射殺死という災厄の連続。
 そして、最後の1/3が最大のクライマックス。あの食人者の行いの部分。(点滴を受けながら)ページを繰る手が早くなる。異様な迫力だ。

 勿論これは〈料理小説〉でもあり、非常に多くの料理の名前とレシピが登場するわけだが、「天国の味」といったような表現は出てくるものの、やはりどんな味なのかは殆ど描ききれていない。まぁそんなことは無理なのは 「料理の味を表現する言葉」 でも論じたのだが。

 この「暗黒小説」を読んで、思い出したのはあの「香水―ある人殺しの物語」である。
 似ている! とてつもない天才の出生・生い立ちに始まり、その異様な才能の目覚めと驚天動地のクライマックスに至る数奇な破滅的運命、その生の凄まじさおぞましさが克明に映像的に描写される。

 西洋人のとことん「肉食的」な性向なくして生み出され得ないであろうこの作品、異文化体験をもたらしたと言える。毒気が相当強いので、万人向けとは言えない。と言うより勧められる人は限られるだろう。
タグ:料理
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