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「ノックス・マシン」(法月 綸太郎) [SF]

これは、SFとしては異様な〈本格〉SF。
 SFとして本格的(だったら普通のハードSFだ)というのではなく、むしろ変則的すぎる。対象テーマが〈本格〉推理小説、なのである。となると、ミステリには弱い私にはちょっと敷居が高い部分もあったわけだが、あまりの奇想ぶりにはぶっ飛んで、欣喜雀躍して読み終えた。今年の星雲賞有力候補じゃなかろうか?

ノックス・マシン

ノックス・マシン

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013/03/27
  • メディア: 単行本




 SFガジェットの設定がすごい、というか強引(笑)。難解な専門用語(相対論、量子力学、言語処理などの)がたんまり出てきて理解が困難、と言うかまるでわからんぞ!もっともらしくさえないぞ!大事なシステムのメカ部分なのに、説明不足だし端折り過ぎだし、作者自身にも「何を言っているのかわからねぇー」状態じゃないのか?(あのソーカル事件から「ソーカライズ」的言説というものらしい) 見事に煙にまかれた!

 「ノックスマシン」ノックスとは1929年にイギリスの作家ノックスが書いた「探偵小説のルール十戒」(例えば、①犯人は小説の冒頭あたりで既に登場していること②あらゆる超自然現象の類は一切排除③…と列記されている。詳しくはここを)のことで、この第⑤項に「中国人を登場させてはならない」という謎の項目があるのだが、それを材料にしている。

>まず「ノックスの十戒」の各項を数式で記述した10次元のマトリクスを構成し、これをノックス場と名づける。このノックス場に作者と読者の対戦を定式化した「二人ゼロ和有限確定完全情報ゲーム」のアルゴリズムを埋め込み、…物語生成方程式を再帰的に走らせて、ウィーナー過程(連続時間確率解析)における解の分布をマッピングする
↑意味わかります? わからんけど、なんかスゲェ〜! それでいいのだ。
 一方で開発が進む、ブラックホールの裸の特異点通過を利用したタイムマシンの障害(過去に戻った途端にパラレルワールドが分岐してしまい、元の世界に帰れなくなる)を打開するために、ノックスが十戒を書いた時点へワープする決死行にノックス場を開発した主人公が赴く、という波瀾万丈驚天動地乾坤一擲諸行無常なあまりといえばあまりな展開。やー、面白かった。

 最後に所収の続編「論理蒸発――ノックスマシン2」では15年後が描かれる。グーグルを思わせる巨大組織が収集した電子書籍データ群が「燃え出す」異常事態が発生する。その原因はクイーンの「シャム双子の謎」の中に入るべきだった「読者への挑戦」部分(特異点)が蒸発したために火元となった、という、これまたぶっ飛んで訳のわからん設定なのだが、最後は感動をもたらすストーリーになっている。堪能した。

 大森望氏によれば
>SFと本格ミステリの史上最も完全なる結婚
(「本の雑誌」2013.5月号)
だそうだ。

 別の二編。
「引き立て役倶楽部の陰謀」は名探偵の引き立て役(ホームズのワトソンみたいな)の架空人物たちが実在してクラブを作り、ミステリの掟破りをしたアガサ・クリスティを誅する陰謀を巡らす話。いわばメタ小説っぽいが、例の失踪事件の真相なども描かれて面白い。
 SFとは言いがたいが、〈本格〉ダークファンタジーといえるかも。これもミステリに関する知識を要求される作品。私は高校生の頃「アクロイド殺し」は読んでいたので、少しは分かったが、「テン・リトル・ニガーズ」は読んでいないので、イマイチだったかも。これって「そして誰もいなくなった」の原題だっけか?
 パロディ的楽屋落ち的楽しみが沢山あるので、ミステリファンにはお勧め。

「バベルの牢獄」は実験的な言語SF。
 宇宙人の精神分離機にかけられ、意識を抽出され、純粋なデータ人格に変換され、厚みのない「等幅空間」(ってなんだよ!フォントか?)に閉じ込められて自分の分離人格と困難なコミュニケーションを通じて脱出を図るという…ちょっと気色悪い作品。少し円城塔風味も。
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