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「脳にいい本だけを読みなさい!― 「脳の本」数千冊の結論 」(森 健) [ノンフィクション]

 著者は「脳の本」に関心を持ち、長年その動向をウォッチしてきた人で、何百冊もの〈脳本〉を読んできた、その経験の上で数々の本を紹介し、分析整理している。これは私にとっても非常に参考になる本だ、と思って図書館で借りた。面白かった。長年の蓄積なしには書けない労作だ。

脳にいい本だけを読みなさい!― 「脳の本」数千冊の結論 (Kobunsha Business)

脳にいい本だけを読みなさい!― 「脳の本」数千冊の結論 (Kobunsha Business)

  • 作者: 森 健
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 勿論私も脳には興味がある。脳とは人そのものであり、体のいろんな器官を失っても人は人であり続けるが、脳を失ったらそうはいかない。数は少ないが、昔から脳に関する本は読んできた。(「日本人の脳」とか、「脳死」とか、SFでは「ターミナルマン」とか…)

 現在も続いている〈脳本〉ブーム。まずその現状(自己啓発系ノウハウ本、娯楽オカルト系などの増加傾向)を述べ、1990年頃からの進展を振り返る。養老孟司の「唯脳論」(1989)に始まり、春山茂雄の「脳内革命」(1995)でブレーク(410万部)。その頃から、fMRIやNIRS(近赤外光脳計測装置)の発達もあり、脳科学は急速に進歩し始めていた。「21世紀は脳の世紀」などとも声高に言われ出していた。

 脳ブームの立役者として、3人のキーパーソンに触れられている。
池谷裕二……良書を多く書いている
川島隆太……脳トレブームの仕掛け人
茂木健一郎…幅広い読み物、キャラクターで売れる、あまり科学的でない

 〈脳本〉の氾濫状況。専門家でもない人が「自由すぎる語り口」で大量に出版されていることについて述べられる。概ね「ポジティブ思考」を賞揚するとか、「脳はハードウェアだが、考え方はソフトウェアだ」という理屈で、要するに昔なら「頭のいい〜」という言い方だったものが「脳」というワードに変わっているだけ、のような状況だ、と。つまり本を売るキーワードとしての「脳」が全盛なのである。
(苫米地英人氏は「ビジネスとして確信犯で〈脳本〉を書いている」んだとか。ちなみにここで「確信犯」は誤用だが)

 沢山出ている〈脳本〉だが、それらは次のように5つのタイプに分類されるとしている。
【脳科学系】純粋に脳科学の知見を解説することに主軸を置く正統派
【生き方自己啓発系】脳科学の話題にも触れつつ、主軸としては、健康や生き方、勉強法や仕事の向上を語る
【タイトル系】基本的に著者は脳の専門家でなく、脳を語りたいわけでもないが、ある主張を展開したいときに脳の話題をつける
【体験系】著者本人ないしは近く接する医師などが脳に関する病気や障害などの体験を記したもの
【疑似科学系】科学を装いつつ、実際には科学的事実に基づかない内容

 「玉」より「石」の方が多い、そうだ。特に自己啓発系、タイトル系に(勿論疑似科学系は全て石w)。脳とは殆ど関係ない内容が多く、エッセンスを抜き出すとどの本も大差ない(古くからある養生訓、規則正しい生活、とか睡眠は十分に、とか明るい気持ちで積極的に、とか。しょーもない)。
 他の専門領域と違い、脳に関しては誰でもが自分の領域から語ることができ、なんでもドグマチックに推論的に語ることができる。これが〈脳本〉の増えたわけだと言う。「プラス思考が良い」には反論できない。また「個人差がある」も批判回避できる呪文になる。
 結局出版界では、「脳内革命」以降、「売れたもん勝ち」の風潮になっており、〈インパクトがあるタイトルや内容 & 難易度のハードルが低く、実用的でだれでも読める〉脳本が売れる、ということだ。

 そもそも古くから「神経神話」なるものがあり、それは
●右脳人間・左脳人間
●早期教育の三歳児神話
●脳は10%しか使われていない
●男脳・女脳
●睡眠学習
●脳の記憶力増強
これらは学術的には既に否定されているが、俗説として根強く残り、未だにネタになっている本が多い、とのこと。

 これら〈脳本〉ブームにより、「脳」が「手が早い」「目が利く」レベルの日常語になった。
 今の脳科学はまだ断片的な相関データの博物学的収集段階にあり、意識や心の詳しいメカニズムは未解明である、と。また、脳の血流はストレスなどでも増えるし、増えても筋肉のようには神経細胞が強化されることはない、とも。

川島隆太氏への評価:
 〈脳トレ〉研究は精緻な科学論文とはいえない。因果関係や客観的データの再現性が不十分。

茂木健一郎氏への評価:
功) 脳科学に関心の無かった人たちに、脳の不思議さや面白さへのきっかけを提示できたこと。「アハ!体験」「偶有性」「クオリア」といった言葉を使うことで脳という存在を身近にし、ドーパミンやミラーニューロンといった専門用語の普及にも一役買った。
罪) 科学の信頼性を微妙に変えた。サービス精神のゆえかテレビでも本でも質があまり高くないものにも出て、その場で脳科学らしき説明を加える。

結論)))
>脳本ブームは、それ程害はないかも。放置でいいかも。
>本の情報の確度や信頼性を見極めるのは結局は読む人のそれまでの知性による。

←身も蓋もないがな!!
>だからいい加減な本が増えてもあまり変わらないだろう。本を読まない人が増えたこの時代にあっては表層的な本でも読まれることはいいことでは?
←だってさ。ますますもって身も蓋も…。

 付録として主だった〈脳本〉100冊を選んで、全ページ下段に一冊ずつ見開きで読書ガイドが載っており壮観である。例の5分類項目もあり、内容紹介と寸評がある。
 疑似科学系については当然批判的。自己啓発系やタイトル系についても辛口な評価が殆どで、突き放している。たまに「面白いが」もあるけれど。なにしろ「億万長者脳」という本(原題に「脳」は無い)の項では「自己啓発本で成功するのは読者ではなく著者だけ、というルール」なんて書いているくらいだ(笑)。
 対して脳科学系や体験系では「良書」の評価が多い。池谷裕二氏の本(「進化しすぎた脳」など)はみな高評価だ。
 で、「この数年(本書は2010年2月刊)で最も良質な本」と絶賛されているのが
「つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化はいかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?」(ディビッド・J・リンデン)
である。これは読まずばなるまい。
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