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「百年法」(山田 宗樹) [SF]

 この作者の作品は初めて読むが、以前「嫌われ松子の一生」をTVドラマ(内山理名主演)で見たことがある(あまり面白くなかった。随分売れたみたいだが)。
 上下2巻の大作だが、一段組の大きな文字なのでさほどの分量でもない。これは内容からして高齢(≒老眼)の読者も多かろうと意識してのことか?
百年法 上

百年法 上

  • 作者: 山田 宗樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: 単行本

百年法 下

百年法 下

  • 作者: 山田 宗樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: 単行本



 少子高齢化社会の行末を描く近未来シミュレーションSFかと思って読み始めたら、すぐに「太平洋戦争の末期に日本に原爆6発が落とされた」で、パラレルワールドものとわかった。
 「一気読みできるエンタメを」というのが作者の意図だったとか(毎日新聞10月30日夕刊)。確かに読みやすく、ドラマチックでそこそこ面白いので、私も一気読みした。

 終戦直後にアメリカから導入されたHAVI(Human-Ageless-Virus Inoculation ヒト不老化ウィルス接種)によって不老不死が実現した社会が舞台。20歳を超えるとそれを受けることができ、殆どの人はごく少数の例外を除き、若いうち(遅くとも30歳くらいまで、女性の多くは即座)に不老不死になって若さを保ち続けるという社会が成立する。この設定、トンデモではあるがなかなか面白い。こうなると、あとはそこにどんな状況・問題が発生するか、ここが作者の腕の見せ所だろう。

 HAVI施行後100年経った2048年、百年法(処置後100年生きた者は一切の人権を失い安楽死させられる)の実施が1年後に迫った時点から物語は始まる。こんなぎりぎりになってから急にドタバタしだすというのはちょっとありえない話だと思うが。
 登場人物は多数で、中央トップの大統領、首相、大臣、次官、官僚たち、警官、軍人などと対比的にマルチプロットで市井の庶民や、安楽死拒否者たちも描かれる。単に一般人の動向を具体的サンプル的に示すためだけかと思ったら、その中から重要人物が出てきたりするのだった。

 〈死〉の意味、それと向き合うこと、それを失うことで人はどのような心的反応を起こすのか?という哲学的な問いも示される。〈不死〉がもたらす不自然感、ストレス、永遠の生への恐れ不安について言及される。この辺の目配りは当然なされるべきだが、宗教者や哲学者が全く登場しないのは作者の素養(農学部出身・製薬会社の研究職という経歴)から来る限界か?
 もっとも、前述のようにこれは「エンタメ」として書かれた作品なので、そんな探求を求めるのはお門違いというものだろう。

 あえて「政治シミュレーション」として見ると、かなり稚拙と言わざるを得ない。文体の格調の無さは別として、戦後の政治経済的歩みが一切示されず、「日本共和国憲法」の内容も示されない。グリップという携帯端末が普及している高度ネットワーク社会なのに、その「ウェブで政治が動かされる」的要素は全くなく、昭和テイストであり、政界の動きも単純化され過ぎのきらいがある。つまり政治シミュレーションの体裁をとってはいても、エンタメゆえの単純化によって「セカイ系」(個人と世界の間に介在する政治経済社会が省かれている)的なのだ。いろいろと階級化、貧困化、財政問題、大衆心理などは描かれているし、それがストーリーの根幹をなすにもかかわらず、どうにも「浅い」感が否めない。
 設定をパラレルワールドとしたことで、それは避けがたい結果だろう。つまりこれは、例えれば歴史小説を書くための取材、文献読み込みなどの労苦を厭って、架空世界を舞台に設定して恣意的に世界構築してるのと同じ結果であると思う。こんな批判は作者にとっては不本意に違いないが。

 というわけで、「必読」とは言えない。時間つぶしにはそれなりに楽しめるかも。
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