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「野いばら」(梶村 啓二) [小説]

日経小説大賞」なんてものがあるとは知らなかったが、その第3回受賞作。(主催者からしてビジネス小説が対象かと思ったらそうでもないようで、本作は歴史小説、いや恋愛小説であった。)

野いばら

野いばら

  • 作者: 梶村 啓二
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2011/12/02
  • メディア: 単行本




 今は無きNHKBSプレミアムの「週刊ブックレビュー」(←もうHP上から削除されてる!あれだけの財産を何で消すのだ>NHK!)で紹介されたのを憶えていて、読みたいと図書館予約していたのが回ってきた。
 設定がユニークだ。幕末を舞台に、英海軍の日本駐在武官と武家の娘との恋を描くという、新機軸と言うべきか、いや似た様な話では「お蝶夫人」という名作があったわけだが…。幕末を舞台にした小説は無数にあるけれど、駐日英海軍士官が主人公というのは珍しい。と言うより本邦初なのではないか?当時の世情を「あちら側」から見ている視点の興味深いことと言ったらない。それでいて見事に完璧に恋愛小説しており、実に面白く読めた。男性作家には本来苦手な恋愛小説としては上出来の部類に入るんじゃなかろうか。

 自然と人の心についての丹念な描写が美しい。日本という美しい国の自然や文物や人間に魅せられる、軍人らしからぬ感性豊かな異邦人エヴァンズ、幕末の風雲急を告げる情勢下にあって、諜報戦が展開するその背景と、そこに日本語教師として立ち現れた美しい凛とした日本女性との悲恋。
 うーん、様になりすぎ、絵になりすぎ、の感はある。

 様々な日本の花が登場する中で、最も存在感を放つ野いばら、この舞台装置の効果がすごい。「ノイバラ」とは、原産国が日本のバラ科の植物でバラ改良(モダンローズの房咲き、蔓性など)に使われた八原種の一つだそうな。その咲き乱れる圧倒的な迫力がうまく描写されている。もちろんそれは、それを観る人間の感覚、切ないシチュエーションによって強化される審美眼の高まりによってより強調されているのだった。

 花を愛するエヴァンズは〈緑の指〉の持ち主なの(で、帰国後見事な庭園のある屋敷を建てるわけ)だが、一方でバイオリン演奏を嗜む。花と音楽との類似(刹那的存在にして連綿と続く永続性)も面白い。

 構成の妙として、現代の日本人(種苗会社勤務でM&Aのために海外出張している)が160年前に書かれたエヴァンズの手記を読むというダブル・プロットになっているのも心憎い演出だろう。

 参考文献
●アーネスト・サトウ「外交官の見た明治維新」●ミットフォート「英国外交官の見た幕末維新・リーズディル卿回顧録」●ロバート・フォーチュン「幕末日本探訪記 江戸と北京」
と綿密な取材の上に書かれているのもリアリティの元になっている。おすすめ。
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