SSブログ

「七十歳死亡法案、可決」(垣谷 美雨) [小説]

2020年「七十歳に達した者は全て安楽死させる。現在七十歳以上の2千万人は施行初年度に安楽死させる」というトンデモ法案が可決された、というところから始まる。

七十歳死亡法案、可決

七十歳死亡法案、可決

  • 作者: 垣谷 美雨
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/01/27
  • メディア: 単行本




こんなどぎついタイトルとは、少子高齢化・財政破綻問題を極端な設定で考察するポリティカル・シミュレーション小説かと思いきや、中身はただの家族小説。マクロな事象でなく、ミクロな一家族の具体的な生活や心理を対象にし、介護問題や就職問題、家族間の葛藤などを等身大の視点から描いた普通小説に過ぎなかった。

 なのでやたら読みやすくはあったものの、激しく脱力してしまった。つまりSFのようでSFでない。
 そもそもこんな「法案」自体が荒唐無稽の極(明らかに違憲だし)なのだが、それでいて一転近視眼的に〈それに翻弄される庶民〉を描くというのも、いかにも取って付けたようで〈リアリティ〉において整合性がとれない。
 家庭をかえりみない父、介護に疲れきる母、寝たきりなのに元気でわがままな祖母、エリート会社員から引きこもりニートに堕ちた息子、それぞれの一人称で次々に言わばポジショントーク的な記述が続く。文章はこなれてうまいので、それぞれの感懐にはとてもリアリティがある。「おい、その身勝手さ、呆れてしまうわ!」的なリアリティではあるが。

 結末は意外とも言えるが(ネタバレはしないでおこう)、ご都合主義が一貫しているので、どんでん返しの爽快感はない。強引にハッピーエンドに持って行った感が強い。

 一つだけ〈膝を打った〉記述がある。この法案の可決によって、早期退職者が激増した、という箇所。私の退職の動機と同じではないか(笑)。
nice!(0)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 3

duznamak

 タイトル見て、「おっ、この使い古された設定で、どんな斬新な内容が・・・?」と一瞬期待したのですが、SFじゃないんですか。がっかり。

 ところで我が一族には、「享年69歳で死亡する」という謎のジンクスがあります。僕自身、子どもの頃から「自分は69歳で死ぬ」と信じてきましたし、今でもそのつもりでいます(そして最近、「享年69歳」だと、12月生まれの僕には不利だということに気付きました)。
 なので、70歳死亡法には、なんか不公平感を抱いてしまいますね。年金の受給総額も少なくなるし、70歳になる前に勝手に死ぬから安楽死のコストも掛からないし。定年後何年生きるかを選択できて、短い年数を選んだ人には何かボーナス、みたいなシステムにして欲しいです。

by duznamak (2012-06-20 18:35) 

ask

>「享年69歳で死亡する」という謎のジンクス
なんすか?そりゃ。そういう例が先祖に頻出してるんですか?

>12月生まれの僕には不利だということ
なるほど、享年は数え年で言うのですね。私も知らなかった。

>何かボーナス、みたいなシステムにして
そこら辺は「施行規則」の細目として省令かなんかで決まるんじゃないでしょうか?
by ask (2012-06-21 00:51) 

duznamak

何人も連続で「享年69歳」を輩出しているそうです。僕が生まれる前から続いているとか。僕は、「享年69歳」以外の一族の葬式を見たことがありません。
 69歳死亡説を初めて聞いたのは小学校高学年の頃で、かなりのインパクトがありました。以降、「自分自身も享年69歳で死ぬ」という信仰を持つに至った次第です、
by duznamak (2012-06-23 19:11) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。