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「歌うクジラ」(村上 龍) [SF]

紙の本よりも前にiPadの電子書籍版が出たということで話題になった作品。iPadで見るとどんなふうになってるかは、ここを見ればわかる。
実際に購入した人の報告はこちら
 
私は図書館で借りて紙で読んだ。

歌うクジラ 上
歌うクジラ 下

 村上龍としては多分初めての本格的なSFで、近未来というより、現代社会とは激変した100年後の「中未来」のディストピア(反ユートピア)小説である。荒筋に関しては、例によって省略。朝日新聞のレビューを見て欲しい。

 しかし、経済に強いはずの村上龍が、この奇妙な異形の社会のインフラに関しては曖昧なままにしているのはちょっと戴けない。政治の歴史(内乱とか階層化とか)について相当詳しく展開していて、ムリめではあってもそれなりの脈絡らしきものはあるのだが、その制度を支える物理的経済インフラ構造の設定に無理があるとしか思えない。(まぁ、後述のようにそれは主眼ではないのだが)
 SFガジェットが満載なのだが、SF者としては、突込みどころがたくさんある。伊坂幸太郎の「終末のフール」でも感じたことだが、SFプロパーでない書き手が下手にSFに手を出すと、極めて基本的な知識に漏れがあって、「お里が知れる」ことになるのではなかろうか。
 端的な例が、「低軌道上の宇宙ステーション」へ軌道エレベータで登るという設定。それも赤道上でなく瀬戸内海上空の、である。「昼夜が90分ごとに訪れる」なんて書いているのである。エレベータでつながってる宇宙港を曳きずって周回してるのか? (編集者はこういうところにダメ出ししないのか?とか思ったが、自分で電子本出版事業を立ち上げるような作家はあまり編集者は必要としていないのかも知れない。)
 他にも動作原理がよく分からない「魔法のような」機械装置が目白押しで出て来る。「反重力」って、あーた、タイムマシンに匹敵するほどのテクノロジーじゃないの?100年後には実現?! 乗り物類にしてもどういうエネルギーで動いてんのさ、メンテは?みたいな。
 …なーんて腐すだけではしょうがない。ま、つまりはファンタジーなわけだ。それはそれとして、次々に目眩のするような展開の早さは面白かった、と言っていいだろう。相当グロくておぞましい場面が多すぎの感は否めないが。
 大団円もちょっと安っぽいB級SF映画みたいで、なんだかなぁ?ではあるのだが、主人公アキラの様々な出会いと体験を通しての実存的探求という「純文学的」帰結は、それなりに重い読後感を残していて、「失敗作」とは言い切れないかも。
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syun

村上龍の作品てアタリハズレが激しいみたいだけど、これはほんとに微妙みたいですね。
でも、SF史上最大の発明といったら、やっぱり沼先生の"肉便器"じゃないですか?www
by syun (2011-01-26 22:23) 

ask

うん、「微妙」と言うか、「残念」と言うか…。
バイオレンスが好きな気味には向いてるかもだけど、SFとしての出来はいまいち、イマニかなぁ。

>沼先生の"肉便器"
「ヤプー」を読んだのか?!
あれを超えるSFはなかなか無い。
高校生にして侮りがたし、だな。ちと心配だが。
(コメントがあるのに気づくのが遅れて失礼)
by ask (2011-01-27 02:30) 

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