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「天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ」(小川 一水) [SF]

小川一水の作品は初めてだ。もはや日本SF界の「中堅」とも言うべきこの作家を今まで読んでいなかったということは、私のSF熱の衰えの表れ以外の何ものでもないだろう。
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)


 なんとなくとっつきにくかった、のではあるが、それは他の作家にしても同じこと。つまり私はもはや現役の「SF者」とは言えないのかも。
 それをなぜ読む気になったかというと、Twitterで見つけてフォローしてみて、ちょっと親しみを覚えたというのがある(残念ながらフォロー返しはされていないが)。そこへ図書館でたまたま目についたので、借りて読んだという次第。

 力の入れ方が半端じゃないようだ。自分の全てをぶち込んだ大作といった風情。何しろ10巻にもなろうという構想なのだ。文庫本2冊のこの第一巻はその開幕を告げる。3年計画で執筆するらしい。それにずっと付き合うことになるかどうかはまだわからない。と言うのも、1巻を読んだだけではまだ評価が定まらないからだ。
 
 設定はよくある宇宙植民地の話だが、かなり捻ってある。29世紀、人類は数多くの移民船を他の恒星系に向かって送り出し、多くの植民船は無事に植民星に到着し、繁栄し再びさらに植民船を送り出すようになっているが、植民星メニー・メニー・シープに到着したシェパード号は、到着時のトラブルによりその能力を生かせず、移民の技術レベルは20世紀のレベルまで後退している。「臨時総督」が世襲で統治するという王政にまで落ち込んでしまっているのだ。
 わずか五千平方キロの狭い世界に二十万人しか住んでいないのだが、構成員は多様である。「海の一統」という改造された人類や、「恋人たち」と呼ばれるセックスアンドロイド群、先住種である「石工」と呼ばれる昆虫様の生物などと共存する人類。地下に埋まったシェパード号の原子炉だけがエネルギー源というインフラの偏り。そこに政情不安が起こり、内戦が勃発し……もう波乱万丈。
 この作家のストーリーテリング力はなかなかのもので、読みやすいし上手いのだが、イメージしていたより随分と柔らかい、古風な60年代SF的雰囲気がある。つまりなんと言うか、ちょっとガジェット類に無条件に頼っている感じがある。で、そういうSF文法の上に構築しているので仕方ないといえば言えるし、懐かしいテイストとも言えるのだが、いかにも「古い」し、やはり例によって「ご都合主義」を感じてしまった。ツッコミどころがありすぎなのである。
 技術が失われてて、なんでアンドロイドがメンテ出来てんの?とか、20万人程度の世界でなんでそんな軍備が?とか。さらにはなんでそこでそんなに都合よく出会うんだよ、とかまで。展開に無理があるのだ。残念と言わざるを得ない。
 大体、あとがきで「『ちょ、おいィ!?』と叫んでいただけましたか。これはそういう本です。」と著者が書いている。まさにそう思った。ちょっと展開が酷くないかい? ネタバレは出来ないけど、なんかあまりと言えばあまりな展開。情け容赦なさすぎ。別にハッピーエンドじゃなきゃ厭だ、なんて思わないけれど…。
 で第2巻はいきなり現代に跳んで、なんかパンデミックな話が始まるらしい。上で「まだ評価が定まってない」とは言ったが、うーむ、ちょっと悩んでしまうなぁ。読みたいSFは他にもたくさん溜まってるしなぁ…。
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コメント 1

ask

第2巻「救世群」を読み、感想を書きました。↓
http://ask0030.blog.so-net.ne.jp/2010-11-10
by ask (2010-11-22 12:00) 

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