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「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」(白石 一文) [小説]

 山本周五郎賞受賞作。結構売れているようだ。NHKBS2の「週刊ブックレビュー」の著者インタビューで見て、読んでみようかと思っていた。
この胸に深々と突き刺さる矢を抜け〈上〉この胸に深々と突き刺さる矢を抜け〈下〉

それにしても、この表紙、全く意味不明だ。不気味だし(べつにいいけど)。



 で、図書館で予約してしばらく待たされた後、〈用意出来ました〉メールが下巻の方が先に来た。そりゃ困る。出来れば、と言うか絶対上巻の方から先に読みたい。かといって権利放棄するのもなぁ、と言ったら、上巻の用意ができるまで保留してくれる、という。やれ嬉しや。…というわけで、上下揃いの状態で同時に借りて来て読んだ。
 なんだ、こりゃ。大外れではないか。こんな出来の悪い作品(本人も「失敗作」と言っているらしい)に賞だなんて、周五郎が地下で怒ってるんじゃないか?
 一言で言えば、支離滅裂である。構成も展開もガタガタであり、文章も稚拙だし、ご都合主義だし、キャラは立っておらず適当に振る舞うし…。
 (以下ネタバレ含むのでご注意)
 
 
 
 
 
 



 主人公は「週刊文春」を思わせる週刊誌(これは私の只の印象だが)の編集長で、胃がんを患っている。政界を揺るがすスキャンダルのスクープ取材を進める一方で、業界のコネを利用してグラビアモデルを抱かせて貰ったりしている。絵に描いたような俗物の設定であるが、社内政治なども含めたそういう下世話な三文小説的ストーリー展開の一方、随所に社会的なあるいは精神的な問題についての有名な著作からの引用がやたらと長く挿入される。(と言っても、普通に新聞読んでる程度の人には殆ど既知の「常識」レベルの話ばかりである。)それを仰々しく並べ立て、新自由主義によるひど過ぎる収入格差、宗教的世界観などの知見を披瀝するが、その割に主人公はそんな問題とは殆ど無縁の行動を続ける。社会といかに遊離しているか、を対照的に描こうとしているのか?いや少しは脳裏に引っ掛かってはいるようなのだが、結びつかない、いやむしろそれらから目を背けて個人的な生の充実を選びとるさまを肯定的に描き出している。なんとも意図を計りかねる展開だ。そのメインに、死んだ子供の霊がアドバイスを語りかけるなどというオカルト的発想が据えられており、なんともおめでたいエンディングとなっている。あんだけ大風呂敷広げて最後はこれかい!
 
〈いくつか気になったこと。〉
 文中の登場人物の名前が全てカタカナ表記されていて読みにくいことこの上ない。これはどういう効果を狙ってのものなのか全く分からない。日本をグローバルな視点で相対化しようとしている、とも思えない。
 読んでいて、「えっ、さっきの話と矛盾するんじゃないか?」みたいに思うこと再三再四。
 作者は「バタフライ効果」の意味を取り違えている。
 Amazonのカスタマーレビューを見ると、絶賛してる人が多くてびっくりした。
 「週刊ブックレビュー」で藤沢周氏が、「小説ではなく論文を書く気はないか?」と問うたのに対し、作者は「その気はない」と答えていた。納得。(論文なんて書ける訳がない)
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