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「チャイルド44」(トム・ロブ・スミス) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

チャイルド44 上巻 (1) (新潮文庫 ス 25-1)
チャイルド44 下巻 (3) (新潮文庫 ス 25-2)チャイルド44 上下巻
(新潮文庫 ス 25-1,2)
トム・ロブ・スミス (著)
田口 俊樹 (翻訳)
 これはとてつもなく面白い!!
 上下巻の2冊構成だが、長さを全く感じさせない。人物造形の確かさ、社会背景の的確な描写、スリリングな展開と、殆ど完璧な小説だ。訳も読みやすく素晴らしい。
 北上次郎氏は「今年度ベストワン」と絶賛している(NHKBS2週刊ブックレビュー10/18)。それを信じて一読、納得。

 2008年度英国推理作家協会賞・スリラー部門を受賞。著者はまだ28歳で、これが処女作だというのだから驚く。なんという完成度。
 「子供たちは森に消えた」というノンフィクションがある(未読)。だいぶ前に出た本で、ソ連で70〜80年代に発生した大量連続児童殺人事件を扱ったものだが、西側社会ではありきたりなシリアルキラー(快楽殺人者)がソ連にも居た、ということは別に意外でもなく、興味を惹かれなかったので、読もうとはしなかった。しかし、事情が違うということを本書を読んで初めて知った。
 この作品は、そのソ連での事件をベースに、時代をスターリン時代に変えて舞台設定をして再構成するという離れ業をやってのけた。
 スターリン時代というもののおぞましさ、苛烈さについてはある程度知っていたとはいうものの、その認識は極めて不十分だった。数百万人が粛清されたり、強制移住させられたり、餓死したり、強制収容所に入れられたり、というのは聞いていたし、ソルジェニーツィンの「イワン・デニーソビッチの1日」も読んだことはある。しかし、この、考証の確かな、多くの参考文献の基礎の上に構築された作品で描かれる恐怖政治社会、密告社会の庶民の日常はすさまじいもので、いやはやここまで酷い状況だったのかと今更ながら知らされた、というのは我ながら不明と言うべきでちょっと恥ずかしい。ここには小説というものが持ち得る、尋常でない迫力、事実ではなくとも真実(への接近)がある。
 この作品の価値は、そういう歴史的事実をフィクションの形で明らかにする、ということが第一としても、それだけでなく、ミステリ/サスペンスとしての娯楽性も超一級である。人間心理の機微、その醜さ、愚かさ、逆にけなげさ、気高さなどなど、についての様々な描写の豊かさ、興味深さは特筆すべきだし、過酷な境遇での冒険に次ぐ冒険の手に汗握る興奮ももたらす。普通、探偵は自由に捜査し情報を得ることの出来る特権的な立場にある(安楽椅子探偵にしても)ものだが、この作品ほど悪条件で逆境に追いつめられた探偵というのは空前じゃないだろうか? 絶対のお薦めだ。
 巻頭に折り込みの地図、最初はなんじゃこりゃ、これでも地図なのか!と呆れるくらいあっさりとした情報量の少ないものなのだが、読み進むにつれ、その恐ろしい意味が浮かび上がって来る。
 ところで、ソ連崩壊後の今のロシアって、またプーチンが元に戻そうとしているんじゃないか、という危惧がしてならない。やたらとジャーナリストや元スパイの殺害が横行してるらしいし。
タグ:ミステリ
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