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「他人事」と「客観」 [言葉]

「あなたは自分のことをさも他人事(ひとごと)のように語る」
「いや私は自分自身を『客観的』に見ることが出来るんです。あなたと違うんです」

という福田総理辞任会見での質疑が話題になった。

 この記事のマイカテゴリーは「言葉」であって、「世の中」ではない。つまり、政治的な話をしたいのではなく、あくまでも〈言葉の使い方〉に限定して考えたい。(なにしろ、今年の流行語大賞候補らしいし)

 このやりとりにはトンチンカンな印象を受けた。なんか言葉が噛み合っていない。

 そもそも福田氏は、この質問をした記者のことはまるで知らない筈である。それなのに「あなたと違う(=あなたは自己を客観的に見れない)」というのはあんまりな言い方だろう。カチンと来たからって混ぜっ返すにもせいぜい「あなたはどうか知りませんが」くらいが限界だろう。逆ギレというのはこういうのを指すんだなと思った。
 いや、待てよ。「あなたと違う」というのは「事実はあなたの考えてるのとは違う」という意味だったのだろうか? だとしたら舌足らず過ぎる。興奮してのこととは言え。

 だったとしてもやはりヘンだ。
〈他人事みたいな態度〉と〈自己の客観化〉とは相反するものではない。むしろ近い状態ではないのか? 客観的とはむしろ他人事のように見ることじゃないのか?
 例えば、優秀な医師が自分自身が癌になったとして、症例検討会の席で自分のX線画像やデータを示しながら「この進行度では余命半年ですね」などと言った場合、周囲の人は「あんなに他人事みたいに客観的な態度を保てるなんて、すごい人だ。なんという克己心!」と驚嘆するのではなかろうか?

 とすれば、福田氏はこう言えばよかったのだ。
「いや、他人事みたいとおっしゃいますがね、私は冷静に客観的に自分を省みて話したんですよ。私の父(福田赳夫元総理)は『飄々としてる』と言われましたが、私にもその血が流れてましてね。自己本位の偏狭な見方でなく、あくまでも自己を相対化、客体化して話すので、一見突き放したような言い方になり、それが他人事のように聞こえたんでしょう。」

 だが、こう言ったとしても、はたしてそれで辞任の理由説明になるかどうか、説得力を持ち得るのか、はこのカテゴリーの守備範囲を超えるので、他人事のようにこの記事は終了。
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コメント 7

もちろん

ああ、そうなんですよ。このやりとり、よく分かりませんでした。書いて頂いたので少しスッキリしました。
by もちろん (2008-09-09 02:51) 

duznamak

 噛み合ってないですかね? 有名になった捨て台詞は別にして、「他人事」→「客観的」というやりとりに、僕はそれほど不自然さを感じませんでした。

 会見の映像を見ると、総理は「私は自分自身を客観的に見ること“は”できるんです」と言っているように聞こえます。「見ること“が”」ではありません。また、記者の質問も、「総理の会見がですね、国民には他人事のように聞こえる」というもので、「自分のことを」をいう文句は入っていません。
 つまり、「総理は国民の視点に立っていない。まるで他人事のような物言いだ」という指摘に対し、「自分の言葉が他人事のように聞こえるなんてことは、お前に指摘されるまでもなく、自分でも分かってるんじゃ。客観的に自己を分析することができるのじゃ」と返答した、って話なんじゃないでしょうか。
by duznamak (2008-09-09 11:11) 

ask

なんか混乱して来ました。

>有名になった捨て台詞は別にして
って、別にしていいのかなぁ? 文脈がわからなくなりませんか?

>「自分のことを」をいう文句は入っていません。
確かに入っていませんが、「他人事」という言葉自体が「自分のことなのに」という前提的なニュアンスを含んでいるでしょう?
 国民は、総理の話なんて自分には関係のない、国民たる自分にとっては他人事だ、と感じています、とあの記者が言ったわけじゃないでしょう?

>自分でも分かってるんじゃ。
そうかなぁ、それじゃあ居直りですよね。そこまで尻をまくってるとは思えなくて、あくまでも自己正当化の雰囲気を感じたんですがね。
by ask (2008-09-10 00:29) 

duznamak

>国民は、総理の話なんて自分には関係のない、国民たる自分にとっては他人事だ、と感じています、とあの記者が言ったわけじゃないでしょう?

 いえいえ、僕もそんな解釈をしているわけではないのです。言葉のやりとりというのは、やはり難しいものですね。言葉足らずですみません。
 僕は例の記者の発言を、「総理は国民(の生活に関わる諸々のこと)を他人事のように語る」という意味に解釈しました。つまり、「総理は、国民の生活のことを、あたかも自分のことであるかのように親身になって語るべきだった。しかし、あなたには、それができていなかった」という批判です。

 askさんが挙げた医者の例を使わせていただくと、「(親身になって語るべき)自分が担当する患者の癌を他人事のように語る」という意味なのではないでしょうか?
by duznamak (2008-09-10 01:17) 

peco

家の母もよく、父のことを「言葉の足りない人だから…」と言いますが…こういう人、結構いますよねぇ。寡黙って訳じゃなくって、本当に言葉が足りない人。汲取れる人もそう多くなくてねぇ…。メチャメチャ損してんなぁ、といつも思います。
by peco (2008-09-10 15:16) 

ask

ふむ。
総理は公人中の公人で、その発言は国民生活そのものに深く関わることは勿論ですから、その当人が(自分の仕事のことを)他人事のように語ると言うことは結局、
>「総理は国民(の生活に関わる諸々のこと)を他人事のように語る」という意味にはなりますね。
 でも、だとすると、それに対して「自分を客観的に見ることは出来る」と答えたのはどういうつながりになるのか、理解できない。duznamakさんは、「そんなこと客観的にわかっとるわい」と居直った、という見方ですよね?
 すると、「あなたと違う」ってのは、「そんな当然のことを問題視するお前と俺は違うんじゃい」という意味になる、と?
 うーん、そうかなぁ?


by ask (2008-09-11 21:27) 

ask

【後日談】
<流行語大賞>福田前首相、辞退コメント「花深く咲く処 行跡なし」
12月1日20時25分配信 毎日新聞

 今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」(現代用語の基礎知識選)が発表され、辞任会見の発言「あなたとは違うんです」でトップ10に選ばれた福田前首相は、「誠に光栄ですが、ご辞退申し上げます。『花深く咲く処 行跡なし』」とコメントを発表した。

 福田前首相の真意は不明だが、版画家の棟方志功が、これとよく似た「花深処無行跡(はなふかきところぎょうせきなし)」という言葉を好んで使っていたことが知られている。


by ask (2008-12-02 08:53) 

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