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「乳と卵」(川上 未映子) [小説]

乳と卵

乳と卵

  • 作者: 川上 未映子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/02/22
  • メディア: 単行本
 第138回芥川賞受賞作。単行本でなく、全文掲載の「文藝春秋」3月号を買って読んだ。雑誌の方だと選評や受賞の言葉、著者インタビューなども読めて、お得。

 この作品、〈女性の生理・身体性〉を突き詰めて描いている。だから、男の私にとっては、なかなか共感はしにくい。何と言うか、生々しすぎる。いや、初めて知った世界だというのではない。いろいろの伝聞や読書経験で、この程度の知識は漠然とではあるが私にもある。それは勿論、他人事としての、実感を伴わない知識に過ぎないのだが。
 初潮、思春期を迎えての身体的心理的変化の疾風怒濤ぶりは、男よりも大きいのであろう、と思える。男の私自身ですら思春期の一時期は苦しかった記憶があるが、女性の変化はそれに勝るだろう。女は男よりも〈地上性〉が強い、と言ったら差別的だろうか? 〈女は子宮で考える〉なんて表現もあるが。あるいは♪おんなはう〜み〜♪
 誰の言葉か忘れたが「女は男にとって存在論的他者」という表現があったように思う。で、この小説は女にとっての「存在論的不快」を描いている、と思った。それは成長の一過程で現れるものであって、それを克服というか超克というか、乗り越えて女性の成熟はなされるのだろうが、一時的にはそういう状態になる、と。
 そういう意味ではこのテーマはいわばありきたりなのだが、小説の言語表現(樋口一葉風の延々と続く長広舌のねちっこさと深さ)には作者の言語センスのただならぬ才能を感じさせられた。私は韻文はからっきしダメなのだが、その一歩手前の散文で妙技を見せてくれたように思った。
タグ:少女
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アヨアン・イゴカー

 この小説は私も大分前に文芸春秋を買って読もうと思って、置いたままにしてあった。askさんがコメントを書かれたので、慌てて読んだ次第。

 川上未映子の才能について、そこそこあると感じた。文章については、句読点が少ないので、最初は少し読みづらいと思われるが、慣れれば全く抵抗がない。樋口一葉の『にごりえ』を初めて読んだとき、だらだらしいるように思われ、抵抗感があったが、暫く読んでいたら慣れてしまった。そして、却ってその文章の切れ目の少ないことが気持ちよく感じられた記憶がある。幸田露伴の『五重塔』もそうであった。このだらだら感、或いは川の流れのような文章は、江戸の文学の流れそのものであると感じる。
 私の文学作品の良し悪しの基準。それは、どこかに面白い、考えさせる表現があるか、発想があるか、美しい感性があるか。そして、この作品にはそのいずれもがある。
 「単語と音の響きだけがくるくるとして、次第に巻子と喋っているのだという実感も失われてゆく様子であって難儀した。」
 「混み混みの東京駅から山手線に乗り換えて、・・・人がこの場で即席で人を生んでいるようだ・・・」
 「今日は徹底的な夏の日であります。」
 「蝉の鳴き声が立体にびっちりと貼りついて・・」
 「体自体が喋り、体自体が意思をもち、ひとつひとつの動作の中央には体しかないように見えてくるのやった。」
 以上引用した文章は、思索的であり、時に詩的であり、心理的描写も見事にされている。
 尤も、川上さんがこれからどれだけの小説を書きうるのか、また、今回の文体から離れてゆくのか、或いは更にこの傾向を強めて、独特の文体を作り出すのか、現段階では解らない。
 彼女が将来に、良い作品を書きうるかどうか、彼女自身でもわからないのだろうと思う。もし、彼女が書かずにいられないのだったら、更に面白い作品を書き上げることも可能であろう。しかし、周りの圧力によって書くことになれば、作品の行く先は決まってしまう。
 少し、見守っていたい作家である。
by アヨアン・イゴカー (2008-03-22 01:30) 

ask

 アヨアン・イゴカーさん、私の記事本文よりも長いコメントを書いて頂き、恐縮です。これって、自分のブログに書くに値する、コメントの域を超えて、単独記事のウェイトがあります。凄いサービス精神です。

>askさんがコメントを書かれたので、慌てて読んだ次第
慌てさせてしまい、申し訳ないですが、読む機会になったのなら良かったです。しかも好印象だったので、こちらとしてもちょっと安堵。

>基準。それは、どこかに面白い、考えさせる表現があるか、発想があるか、美しい感性
なるほど。同意します。彼女の文章にはそういう煌めきがありますよね。

>これからどれだけの小説を書きうるのか
これは私も注目し続けたいと思っています。

by ask (2008-03-22 11:02) 

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