「悦楽の園」(木地 雅映子) [小説]
この作家の作品は初めてなのだが、なかなか面白かった。ちょっとライトノベル風らしい(って、ライトノベルってものを読んだことが無いのではっきりとは言えないんだが)。それはつまり地の文の語り口が口語的というか、三人称形式でも一人称に近いことによるのではないかと思われる。
それはともかく、ここで描かれる〈普通でない〉(発達障害の)少年のピュアな心の苦しみと、それに呼応して彼を守護しようとする少女、そこにまといついて同志となるヤンキー少年、それを取り巻く学校という環境の不条理の構図は、なかなかにスリリングである。
いじめ問題というのは古くて新しい問題であり続けているわけだが、この小説での展開は極めてドラマチックで波瀾万丈である。しかもおおらか。「幸福感」の表現は堂に入っている。
難を言えば、とても中学1年生の女の子が使うような言葉じゃない語彙が頻発されていることで、まぁストーリー展開上必要なのかも知れないが、〈ご都合主義〉さが感じられた。ご都合主義と言えば、ファンタジーっぽい部分もそれで、「夢」を多用するところなどに手法としての安直さがあるんじゃないかとも思うけれど、まぁ興ざめさせないところは上手いというべきだろう。
それにしてもタイトルの「悦楽の園」というのは、あまり適切とは思われない。ヒエロニムス・ボスの有名な絵の題名だが、これは主人公の少年が偏執狂的に描く絵が、あの絵の中の怪物たちにそっくりだからというわけなのだが、括弧でくくった表記にすべきではなかったかと思う。
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